2024.05.01 Monthly Pitch

VRで痛みを和らげる治療法開発、xCuraが展望する欧州からの逆輸入展開/Monthly Pitch! アルムナイ

xCura CEO新嶋祐一朗氏

「MonthlyPitch アルムナイ」では、これまでにMonthlyPitch にピッチ登壇し、それを機に成長・発展したスタートアップの最新の動向をお伝えします。

私たち人間が日常生活を送る上で、「痛み」は避けられるものではありません。けがをした際の身体の痛み、病気の痛み、そして人生の厳しさから来る実存的な痛みも存在します。多様な形で私たちの生活に関わってくる「痛み」。これを上手く緩和し、コントロールすることは、質の高い生活を送る上で欠かせない重要な課題です。

痛みの治療は、これまでも医療現場で常に取り組まれてきましたが、中でも特に難しいのが「慢性疼痛」への対処です。慢性疼痛とは体に器質的な原因がないにもかかわらず、長期に渡り痛みを感じ続ける状態を指します。一般的な治療法では改善が難しく、患者を長期に渡り苦しめてしまうケースが多く見られてきました。

xCura(エクスキュラ)は、VR(仮想現実)技術を活用した新しい治療法「セラピアVR」を開発しています。頭部に装着するVRゴーグルから映し出される没入体験で、痛みの認知を別の方向に誘導しようという、あまり聞いたことのないアプローチです。2023年12月にシード資金調達を発表し、今後の進展が期待されるxCuraのCEO新嶋祐一朗氏に話を聞きました。

痛みの本質に迫る新しいアプローチ

xCuraの挑戦を率いる新嶋さんの原点は、大学時代の終末医療の研究を通じて「実存的な痛み」に行き着いたことにあります。がん終末期の患者に対する緩和ケアの中では、人生の意味や存在の問いから来る痛みが見過ごされがちです。そして、この実存的な痛みへの着目から、痛み緩和の新しいアプローチを見出そうと志したのがきっかけでした。

「私が目指すのは、単にケアの質を高めるだけでなく、人生そのものの質を高めることです。痛みそのものから解放されることで、人々が本来の自由で創造的な活動に打ち込める。そこにVRの可能性があると考えています。」(新嶋さん)

xCuraが手がけるVRコンテンツは、催眠療法の手法を応用しています。新嶋さんは「VRは集中力を高める点で催眠と相性が良く、私の持つ催眠療法の知見とVRのスケールメリットを組み合わせることで、より高い痛み緩和効果が期待できる」と説明します。
xCuraのVRコンテンツは現在、「治療中の痛み」と「慢性疼痛」の2つの分野で活用されています。

治療中の痛みに対しては、手術中や検査中にVRゴーグルを装着して痛みの認知を逸らす「ディストラクション」の効果を狙っています。実際にパイロット研究の段階で、ある医療機関では手術中にVRを使うことで鎮静剤使用量が半減したという成果も出ているそうです。

一方の慢性疼痛に対しては、認知行動療法的なアプローチから取り組んでいます。患者に自宅でVRを使いながら呼吸法や瞑想を行ってもらい、「痛みを感じない」という認知を改善させようとしています。

「痛みは単に体の問題だけでなくて、心理的なファクターも大きく影響しています。つまり痛みの本質は身体と心の両面にあり、両方のアプローチが必要不可欠なのです。」(新嶋さん)

医療導入と社会認知への課題


Image credit: xCura

こうした革新的なアプローチを通じて、xCuraが究極的に目指すのは、VRコンテンツを医療機器として認証を受けることですが、そのためには多くのエビデンスが必要となり、かなりの年月を要します。また規制当局も新しいカテゴリの評価方法に頭を悩ませるでしょう。

そこでxCuraでは当面、医療機関に医療機器ではない形で導入を進め、エビデンス収集に特化する方針です。十分なエビデンスが集まった段階で医療機器への道を切り開いていく考えです。ただ、資金調達の面では同社も苦労しているようです。
VRを使った治療は新しい分野だけに、それほど遠くない将来に売上が上がることが見えないと評価されにくい、一般的なベンチャーキャピタルから理解を得るのは簡単ではありません。この課題から、xCuraではこの分野に知見のあるヨーロッパのVCにアプローチを広げています。

「(ヨーロッパのVCの中には)社会課題の解決に着目しているところも多く、私たちのアプローチに関心を持ってくれています。ヨーロッパでの実証を経て、次なるステップに進むというのも一つのアプローチです。」(新嶋さん)

医療・ヘルスケア分野への投資に理解が深いヨーロッパで、xCuraは実証実験を行い、新たな投資家開拓を目指しています。すでに今年の夏以降、フィンランドでのパイロットテストを控えているそうです。
痛みへの対処は、長らく製薬会社の手に委ねられてきました。しかし新嶋さんは、「VRを使えば安全で副作用のない痛み緩和が可能になる」と確信しています。完全にデジタル製品であるVRコンテンツは、医薬品のような副作用の心配がありません。xCuraのセラピアVRは痛みの問題に対して、VRが新たな選択肢を切り拓く可能性を秘めています。

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