2022.04.12 Interview

あらゆるエンタメビジネスがNFTを発行できるようにするプラットフォーム「Fanaply」 〜いずれは、政党や大学も NFT を発行する時代が到来?〜

デジタルエコシステムの拡大で、新ビジネスが資金を調達する手段が多様化してきた。そんな手段の一つでもある NFT(非代替トークン)は特にスポーツやエンタメなどと相性がいいと言われている。スポーツやエンタメビジネスは、ファングッズやマーチャンダイズを販売してマネタイズしてきたが、NFT であれば、距離やオンラインといった物理的な制約さえ超越するデジタルの形で、ファンに価値を直接届けられる。

NFT の市場分析サイト Nonfungible.com によれば、NFT 全体の売上は2021年に176億米ドルに達し、2020年の8,200万米ドルから200倍に増加した。特にコレクターズアイテムは、84億7,000万米ドルと NFT 全体の売上の約半分を占める最大カテゴリで、その中でも最も大きな成功を見せたのは、Dapper Labs と NBA のコラボでバスケットボールの試合のハイライトを収めた「NBA Top Shot」だった。Dapper Labs はこの業績を元に大型調達を実施、時価総額は昨年秋に76億米ドルを記録した。

こうした盛り上がりを聞いたスポーツやエンタメ業界の多くの人が、自らも NFT によるコレクターズアイテムのビジネスに関わりたいと考えるに違いない。そんな時に頼りになるのが Fanaply だ。ニューヨークで2018年に設立されたこのスタートアップは、カナダの音楽業界で起業したり経営に携わったりしてきた Grant Dexter 氏による最新のスタートアップだ。昨年11月のシードラウンドには、ロサンゼルス・ドジャーズらが出資する投資会社らが出資。サイバーエージェント・キャピタルもこのラウンドに参加した。

Fanaply 創業者で CEO の Dexter 氏に、エンタメ業界における NFT ビジネスの将来性などについて話を聞いてみた(ちなみに、Fanaply は「ファナプライ」と呼んでしまいがちだが、正しくは「ファン・アー・プリー」と発音するとのことだ)。

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Fanaply は、どういうビジネスですか?

Dexter 氏:Fanaply のことをターンキー(丸ごと一括請負可能な)NFT サービスプロバイダと呼んでいます。顧客の既存 Web サイトへの連携、ホワイトラベル(NFT の 顧客ブランドによる OEM 発行)を提供しています。顧客のファンダム(ファン集団)に対し、デジタルコレクティブを収集したいと思ってもらえるような、非常に強力なソリューションを提供しています。我々が提供するソリューションには、NFT としての希少価値の創造、需要や供給、ストーリーテリング、マーケティング、コミュニティの構築なども含まれます。

我々は、ブランドやアーティストらと協力し、パッションに訴え、実在するファンのために、真の価値、それも長期的な価値を創造しています。スポーツチームやリーグにファンとの複数のタッチポイントを作ることで、NFT を使ったコミュニティ形成とマネタイズ支援には大きな事業機会があると確信しています。さまざまなレベルのファンが参加でき、コンテンツを持つ IP パートナーが長期的な価値を創造できるようにすることが我々のミッションです。

これまでの実績について教えてください。

我々は、既存のファンやイベントを NFT と連携することで、多くの成功を収めてきました。これまでに累計30万以上の NFT を発行し、中でも最も速いものは60秒未満で売り切りました。平均的な NFT 価格は30米ドルで、この価格帯は Fanaply のファンフレンドリーなアプローチを如実に反映しています。我々は、American Express と初めて共に NFT を立ち上げた会社でもあります。American Express でのみ購入できる、R&B アーティスト SZA のパフォーマンスの舞台裏写真を集めた NFT を販売しました。

NHL(全米ホッケーリーグ)とも提携しフロリダ・パンサーズのファンに向けた NFT を発行、また、総合格闘技団体の Professional Fighters League(PFL)とも提携し、NFT のチャンピオンベルトなどを販売しました。オーストラリア出身のバンド「5 Seconds of Summer」、大手チケッティングサイト「Ticketmaster」、野外音楽フェス「Coachella」などとも、それぞれその分野で史上初の NFT ローンチで協業しています。

これらは、我々のフォーカスと、既存のマーケティング・プロモーション計画や販売計画に連携する力、そしてそれらの中に NFT を追加する力を証明するものだと考えています。

大きな有名企業との取引が目立ちますが、それは戦略的なものですか?

Dexter 氏:今年1月に Danielle Maged という女性を CCO(Chief Commercial Officer)に招き入れました。彼女は以前、チケット販売大手 StubHub(現在は eBay 傘下)の事業提携責任者で、Fox Networks でエグゼクティブ VP を務めた人物です。彼女の信条は、「多くのチャンスを与えてくれるようなスケーラブルな取引をしたい」というものです。そのために、チームやリーグとも話をしますし、アーティスト個人個人と単発の仕事をすることもあります。

インディーズの楽曲配信代行会社 CD Baby のような、3〜4万人のアーティストを顧客をもつ企業と、我々のテクノロジーを連携することも可能でしょう。例えば、シングルやアルバムリリース、商品とバンドルする NFT を作ってみるとか、そういうことも選択肢に入ります。現在は、興行大手の Live Nation とも話を進めているところです。Live Nation とはこれまでにも3〜4種類の VIP 展開を行い、VIP ユーザに NFT をバンドル提供してきました。1回で終わるのではなく、さらなる機会を探求しているのです。

音楽やスポーツ業界以外にも、ファンを集めたい政党などにも使ってもらえる未来があると思いますね。あるいは、学校や大学にも使えると思います。「私は、Bruce Springsteen のライブに50回行ったことがあるけど、あなたは何回行ったことある?」それを証明することもできます。それから、非常に濃厚なファン層が多い、ティア2 のリーグのような小規模なパートナーにも興味があります。でも、我々は短期的には、スケーラブルな機会に焦点を当てたいと考えています。

Fanaply は昨年11月に資金調達をしました。またアーリーステージだと思いますが、日本の会社であるサイバーエージェント・キャピタルから出資を受けています。アーリーステージで、アメリカのスタートアップがアメリカ国外の投資家から資金調達するのは珍しいですが、すでに世界展開を考えているということでしょうか?

Dexter 氏:南出大介氏(サイバーエージェント・キャピタル アメリカオフィス代表)は、デジタル資産とファンダムのデジタル化について事業機会を理解した最初の人物の一人です。私はいくつかのスタートアップを経験しましたが、常に投資家として質の高い人を探すようにしてきました。資金が欲しいのは当然ですが、本当に良い人材も欲しいのです。彼はそのことをよく理解していた最初の人物の一人でした。そして、彼は素晴らしい実績を持っていました。

私はいつも、北米以外の地域にも戦略的にチャンスをもたらしたいと考えています。特に現在では、我々のところにやってくるブランド、我々のドアを叩く広告代理店は増えていますが、サイバーエージェントの経歴を見ると、彼らはまずベンチャーキャピタルとして素晴らしい実績を持っています。市場とのコネクションもそうです。今いるエコシステムの外で、調達する資金のチャネルを多様化させないことは愚かなことだと思います。

NFT の世界では古い会社だと思われるかもしれませんが、我々はまだ初期の会社です。Web の世界で言えば、そう、1997年〜1999年くらいでしょうか。我々の前にはまだ多くのチャンスがあって、それに向かって我々は前進しているのです。

Fanaply のオフィスはニューヨークにありますが、NFT は形のないものなので、どこへでも売れますし、どこからでも買えますよね。ユーザはどこからきているのでしょうか?

我々の顧客の50%はアメリカ国外にいます。そして、そのうちのいくつかは、5 seconds of summer の例ですが、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアからのユーザが70%という大きな数字になっています。つまり、それはグローバルな市場であり、そこにはグローバルなチャンスがあるのです。先日、ある人が「ローカルなパッションを世界規模に拡大したい」と言ってるのを聞きました。それは摩擦がなく(消費者にとって利用することにストレスが無い)、デジタル資産であり、カスタマイズ可能だからだと思うのです。

例えば、あるリーグと話をしたのですが、彼らはドイツにファンがいて、NBAのファンもいて、ドイツにいる特定のチームのファンを中心に NFT を作る方法を検討しています。これは、ある地域に存在する IP をもとに、グローバルなコミュニティをパーソナライズして作ることができる、とても興味深い方法なんです。でも、事業を始めて当初の6カ月間で私が衝撃を受けたのは、アメリカ以外の国の市場がいかに大きいかということでした。

NFTをエンタメやスポーツの世界と絡めた動きとしては、なんと言っても DapperLabs による NBA TopShot のことは忘れることはできませんし、ソフトバンク・ビジョン:ファンドが昨年投資したサッカー NFT の Solare もすでにユニコーンになりました。こういったプレーヤーと Fanaply の最大の違いは何でしょうか?

Dexter 氏:具体的に言うと、視聴覚的な権利にまつわるデジタルな記念品とでも言うべきものでしょうかね。つまり、彼らはゲームの中で起こった瞬間を切り取って販売しているのです。しかし、我々は、NFT がそれ以上のものであると信じています。アメックスと一緒にやった SZA のドロップのようなものです。みんな、デジタルな記念品が欲しがったのです。その瞬間の音声や映像ではなく、美しいスナップショット写真を欲しがったのです。

これらは、オンラインやライブイベントでのエンゲージメント・ツールになると思います。One Direction の Niall Horan のライブでは、先着1万人に NFT をプレゼントする企画を行いました。「私もここに参加したよ」とファン証明できる NFT ですね。ホッケーチーム Nashville Predators の例は非常に面白くて、彼らは音声や映像を一切使うことができなかったが、全く違う色やバージョンのロゴを使って NFT を発行しました。

時間の経過と共に変化していく NFT というアイデアもあります。応援するチームの成績、アーティストの成長、何回アーティストのショーに行ったかによって、色が変化していくとか。我々はレーベルやリーグ、パートナーと話をしていて、音声や映像は、10ある選択肢のうちの1つに過ぎないということがわかっているからです。その瞬間を捉えてマネタイズすることもできますが、他にもマネタイズできるものがたくさんあるのです。

例えば、あなたが50人とか100人の VIP の一人で、それに関連したステータスをたくさん持っているとしますよね。そのステータスを流通市場で二次売買することができるんです。TopShot は、一定数を所有する必要があり、それをすべて集めると1つのセットになる、というようにゲーム化しようとしています。でも、正直なところ、ゲームの一瞬を自分のものにしたいと思う人はほんの数パーセントです。

一方で、心からチームの勝利を願って試合に参加している人たちもいるわけです。彼らはチームに対して本当に情熱的なんです。選手のために見に来ている人もいる。試合中に起こった瞬間を見るために来ている人もいる。他の人に会うために参加する人もいます。このように、さまざまなケースや機会があり、それは素晴らしいことだと思います。TopShot は素晴らしかったです。NFT への扉が開かれた瞬間でした。

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音楽やスポーツ界で、アマチュアかプロかは、アーティストやプレーヤーがそれを生業にできているかどうかの違いだ。プロの世界には興行ビジネスが生まれ、熱狂を求めるファンはチケットを購入し、スポンサー企業が広告費や協賛金を支払うことで成立する。NFT の活用によって、資金の集まりにくかった新人やインディーズにも新たな機会がもたらされるだろう。

デジタルが普及したことで不法コピーなど大きな被害に遭ってきたのがエンタメ業界であることも事実だ。NFT が普及すれば、コンテンツに対して個別に二次利用権を設定したり、二次販売時にも発行元に収益を還元したりできることから、エンタメ業界の民主化が進むきっかけになることを期待する声もある。

こうしたルール作りは世界中で始まったばかりだ。IP はグローバルに取引・消費されるため、各国政府による法整備が追いつかない可能性もある。大きなプレーヤーのプロジェクトで繰り返される流儀が業界ルールとして定着するのはよくあることで、Fanaply はこのポジションを狙っているのではないだろうか。彼らが日本に進出するのも、そう先のことではなさそうだ。

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