2022.04.08 Interview

アスエネに聞く、世界の再エネトレンド 〜日本を脱炭素社会に導くスタートアップの戦略とは〜

西和田浩平(アスエネ Co-Founder 代表取締役 CEO)
北尾崇(サイバーエージェント・キャピタル シニア・ヴァイス・プレジデント)

東京が計画停電を経験するきっかけとなった東日本大震災から10年以上が経ちました。でも、災いは忘れた頃にやってきます。今月(2022年3月)再び大きな地震が東北地方を襲い、首都圏では史上初の電力需給逼迫警報が発せられました。一方、ロシアのウクライナ侵攻は、石油や天然ガスの調達にも暗い影を落としています。21世紀になって、我々はいろいろな文明の利器の恩恵を享受できるようになったのに、社会の前提を根底から覆すかもしれないエネルギー問題が未解決であることを改めて再認識させられました。

エネルギー調達の課題と、地球温暖化問題の両方を解決できるカギとして注目を集めるのが再生可能エネルギー、いわゆる再エネです。明日(あす)のエネルギー、地球(アース)のエネルギーにちなんで名づけられたアスエネは、2019年10月に西和田浩平氏により設立されました。西和田氏は以前、三井物産で海外各地の再エネ関連プロジェクトに従事していた経験を持ち、海外の再エネ市場に精通されています。西和田氏によれば、日本の再エネ市場は、先進国の中では遅れている部類に入るようです。

アスエネが目指すのは、ビジネスを通じて、そんな日本の再エネ市場を他の先進国と同等かそれ以上のレベルにまで引き上げること。スタートアップのような小さな組織でも、社会を変えられるアクションにつなげられると信じ、まさに日本の産業界を脱炭素社会に導くべく、複数のプロダクトを発表されています。日本も宣言した2050年のカーボンニュートラル達成に向け、ようやく追い風が吹き始めた業界です。世界の再エネ業界の動向と、アスエネの事業戦略について、西和田氏に話を聞いてみることにしましょう。


以下は、ディスカッションの要旨です。ディスカッションの全編は動画をご覧ください。

北尾:自己紹介、そして、事業内容をご紹介ください。

西和田:アスエネ株式会社 代表の西和田と申します。自己紹介させていただくと、僕は慶応大学を卒業した後、三井物産という総合商社に入って、そこから約11年間、主に太陽光発電、風力発電、蓄電池といった再生エネルギーの新規事業開発や投資、M&Aをしてきました。日本だけでなくブラジル、メキシコ、ヨーロッパと、7割ぐらい海外にいました。途中で、2年間ブラジルに行っていたりもして、どちらかというと国内より海外の仕事の方が多かったです。

アスエネを立ち上げたのが2019年の10月で、今ちょうど三期目のスタートアップになります。事業としてはクライメートテックの分野で事業を展開しています。


アスエネ電気

今は二つの事業を展開しておりまして、一つ目がCO2ゼロで地産地消もできるクリーン電力サービスです。

これは法人のお客様に対して、要は単なる電気を供給するのではなくて、まずCO2がゼロの再生可能エネルギーを使ったり、一部クレジットも使ったりしながら、CO2をゼロにした電気と、ブロックチェーンの技術を使ってどこからどこに電力が流れたかを30分ごとにトラッキングし、お客は電気を買う発電所を選べるみたいな、地域を選んだり発電所を選んだりすることで、電気の地産地消みたいなことも謳えるクリーン電力サービスをやっています。


アスゼロ

二つ目が昨年リリースしたサービスで、CO2排出量の見える化のクラウドサービスです。これは完全にB2BSaaS事業になります。2020年に菅総理が脱炭素社会、カーボンニュートラルな社会を2050年までに作るぞっていう目標を掲げました。

今、企業のお客様からCO2を削減したいというお声がすごく上がってるにもかかわらず、自社がどれだけCO2を出したかを実はちゃんと可視化・見える化できてないお客様がまだ全体の90%以上いるような形です。

ですので、まずはファーストステップとして簡単に見える化して、それをどうやって減らしていくかっていうところをワンストップでサービスを支援させていただくというような二つの事業を今やらせていただいております。

北尾:この領域で起業したきっかけは、何でしたか?


アスエネのコアメンバー

西和田:この領域で起業に至った理由としては、少し過去に遡って二つあります。一つは、僕は大学時代に実は音楽をやっていて、ギターとか作曲をしていたんです。そっちの世界でプロに行きたいと思っていたんですけど挫折して、当時ビジネスには全然興味なかったんです。何やろうかなってフラフラしていた時に、尊敬するMr.Childrenの櫻井さんがBank Bandっていう別のバンドをプロデューサーの小林武史さんと坂本龍一さんと3人でやっていました。

このバンドは、ライブとかの売上を環境系のベンチャーなどの団体に投資・融資するっていうアクションをやってたんですね。それを大学2年の時に知って、ビジネスを通じてそういう風に社会を変えられるアクションを取れるんだ、それならビジネスってちょっと面白いんじゃないかって思い、そこに刺激を受けて環境系を勉強し始めたのがこの領域に興味を持ったきっかけです。

当時(2007〜2008年頃)は、いろいろ勉強していくと、なかなかビジネスでやるのは難しいなという時代でした。唯一ビジネスになりそうだったのが再生可能エネルギーです。当時はまだ全然お金にならないと言われた時代なんですけど。この分野だったら可能性がありそうだなっていうので、三井物産に入った後もそこをやらせてくれとずっと言ってました。

その分野をやっていると、面白いし社会のためにもなってるんじゃないかっていう思いもすごく強いし、大義もある。ビジネス的にも成り立つんじゃないかと思うようになり、すごく面白くて。この領域に興味を持ったきっかけはこれです。なので僕はこの分野で特化して次世代のためにやりたいなっていう思いが今も強いです。


Ecogen の Web サイト

二つ目にきっかけとなったのは、僕は途中ブラジルに行っていて、ブラジルの Ecogen というベンチャーに出向していました。Ecogen は省エネや一部再生可能エネルギーの小型の分散型電源をサービス事業でリースするベンチャーで、ベンチャーと言ってもシリーズB〜Cぐらいで、すでに200名ぐらいいました。

三井物産から買収を決めて最初に出向した重枝さんという方が副社長で、その人と東京ガスの人がCTOで来ていて、あとは僕の3人しか日本人はいなかったです。その中で、ベンチャーのスピード感と、ブラジル人社長のネルソン氏と重枝さんの2人でほとんどの意思決定を議論しながら決めていく様を僕は身近で見ていました。日本だけじゃなくてグローバルにチャレンジして勝っていく姿を見ていて、僕も経営に挑戦したいなと改めて再認識したのが2014〜2016年ぐらいですね。

その二つに大きく影響を受けて、この領域で僕もチャレンジしようと。2019年当時33歳だったんですが、重枝さんも32歳ぐらいから経営をやられてたので、僕も三十代前半にチャレンジを仕掛けたいなという思いがありました。タイミングとしてはなぜ2019年かと言うと自分の年齢のこともあって決めたというのが背景です。

北尾:なぜこのタイミングで、そして、この事業の切り口で創業されたんですか?

西和田:この分野でやりたいっていうのは決めていて、その切り口として考えていたのは、僕は海外で仕事を多くやっていたので、海外ではすごく普及してるんだけど日本ではまだ全然進んでないみたいな、タイムマシンモデルじゃないですけど、すごく感じる部分があって、その一つが再生可能エネルギーだったんですよね。

日本だとまだ補助金を使っていて、値段がまだまだ高い。でも実はもう海外だと補助金なんてみんな使ってない。太陽光だけ見たら、1kWhあたりのコストはもう火力発電とかと同じ水準ぐらいまで落ちてるんですよ。こういう時代になっているにもかかわらず、そもそも何で日本ではできてないんだろうっていうところから最初は入っていきました。かなり調査があって、改めてした調査もあります。

あとはモデル的な切り口の一つの見方としては、キャピタルレスに入っていくっていうところは少し意識しましたね。三井物産でやるモデルはその逆で、結構キャピタルヘビー、要は資金が結構必要なモデルの方が参入障壁も高いし、ベンチャーの初期フェーズでいきなりそのモデルをやると、いきなり相当な資金が必要になって大変だったりするので、モデル的にはキャピタルレスに入っていくっていうことは意識しました。

再エネとか小売りっていうのは、ベンチマークとなる市場で言うと、アメリカやイギリスが電力小売の先に行ってるんですよね。再エネ特化テクノロジーを生かした電力小売りのモデルがシェアをガンガン伸ばしていました。僕は、そこの細かい要因とかどういう市場環境になっているのかというところを把握していて、世界と日本の市場を詳しく知っていたので、まずはそこのギャップをしっかりと埋めたい、このモデルはもっと日本でも来るべきなんじゃないかと思って入っていったという状況です。

北尾:再エネに対する企業の考え方が一番進んでる国はどこですか? また、その国と比べて、日本は何周、何年ぐらい遅れてるような感覚なんですか?


世界のカーボンニュートラル目標と取り組み(経済産業省・資源エネルギー庁の Web サイトから)

西和田:一番進んでいるのはヨーロッパです。ヨーロッパとアメリカの西海岸とオーストラリア。ヨーロッパと比べると日本は2〜3周ぐらい遅れているようなイメージです。僕が起業した2019年はまだ、この業界にいる人たちは再エネが来ることをある程度分かっていても、業界外の人からしたら「再エネって本当に来るの?」っていうスタンスだったんですよね。

当時僕らのお客様は大企業だけでなく中堅企業のお客さんが結構多く、中堅企業のお客様も再エネを使う時代がもう来てるし、「これからどんどん来るんだよ」という話を投資委員会とかでしても、一部では「本当に中堅企業が再エネなんて使うの?」みたいなことを言われていました。

潮目がすごく変わったなと思ったのは、2020年の10月に菅総理が就任され、初心表明演説で「日本は2050年までに脱炭素社会、カーボンニュートラルの世界を作る」と明確に掲げたんですよね。これが潮目になっていて、国がもうこっちに行くんだっていうのを決めたら、企業のお客様たちはみんなその方針に則って、特に2020年10月以降はすごくニーズが増えました。そこから我々のサービスの契約数は右肩上がりに急増しているという状況です。

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