2022.07.27 Interview

環境エネルギー投資・白石氏に聞く、欧州ESG市場の今(後編) 〜環境・エネルギー系スタートアップの注目株をチェック〜

ESGとは、環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉です。企業が長期的(サステナブル)に成長するためには、経営において ESG の観点が必要だという考え方が世界中で広まっています。日本では今年4月に東証が市場区分を再編、「プライム」に上場する企業には、ESG の観点を含むコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の適用が求められるようになりました。

前編からこの分野に精通されている環境エネルギー投資のグローバルヘッド白石到さんにお話しを伺っています。白石さんは、モルガン・スタンレーを経て、2006年よりFortis / ABN Amro銀行(アムステルダム)、2009年より再生可能エネルギー企業Masdar (アブダビ)にて、カーボンクレジットの取引に従事され、2011年には丸紅(パリ/東京)に転じ、欧州の化学会社との ESCO 事業の合弁会社設立に従事されました。2017年から環境エネルギー投資に参画され、ヨーロッパを拠点に海外投資や情報収集を先導されています。

前編では欧州の ESG 市場のトレンド全般についてお話を伺ってきましたが、後編では、具体的にどのようなスタートアップがこの分野で注目を集めているのかについて話を伺います。

北尾:前回はヨーロッパから見るマクロ的な視点でどのような行動の変化があるのかということをお伺いしました。今回はよりミクロの視点でどんなトレンドがあるのか伺っていきたいなと思っております。
VC として気になるのはどういう領域にお金が集まってるのかという部分です。大きく2 つに分けて聞いてみたいです。1 つはこのトピックで欠かせないエネルギー問題。2 つ目はエネルギー以外のところでどんなのがあるのかです。

白石:まずエネルギーの分野中心でお伝えしますと、太陽光、洋上風力はベンチャーの領域ではなくて、基本的にプロジェクトファイナンスという形で多額のお金が入っています。ベンチャーキャピタルの視点でお伝えしますと、例えばディープテック関連だとカーボンキャプチャー、つまり CO2 、温暖化ガスを大気から直接吸収して集めていくとか、あるいはソースポイントキャプチャーで工場などから出てくる CO2をそこで回収していく技術が熱くなっています。あとは特にこの半年ほどすごく変わってるところで行くと水素です。水素の製造・運搬でアンモニアとか水素のサプライチェーンがかなり賑やかになっていっている印象はあります。前回お伝えした安全保障と関連しますが、天然ガスに変わるものとして特に電化できない部分に関しては水素を使っていくというのが大きな流れとしてあります。非常にアンビシャスな目標を各国、大企業含め 2025 年から2030 年にかけて比較的短期的な時間軸で設定しています。

あとはマテリアル関連でCO2削減に関わるコンクリートの開発などがClimate Techの中でにぎやかになっています。
インターネット関連で活躍できる企業でいくと、カーボンオフセットのトレーディング、クレジットのトレーディング、そしてそれらをトラッキングするソフトウェアを持つ会社が欧州だけでなく多額の資金調達をしています。

地産地消をサポートするベンチャーで、ソーラーのインストーラー向けにソフトウェア、プラットフォームを開発して顧客獲得コストの低下、そして従来デジタル化されてない状態にあるので作業のデジタル化をサポートして作業スピードを迅速化しており、これらも欧州、ドイツを中心にかなりお金が集まっています。彼らが考えているのは、太陽光から見ていきますが、大体が、関係を築いたお客さんにバッテリー納入とかイビーチャージャーの販売、ヒートポンプを入れたりしていて、家の周りの色んな電化をサポートしてそれらをIoT で繋げて新しいサービスを提供する会社も出てきています。

あとは、ソフト・ハードの両方ありますが、送配電管理をマイクログリッド的に使っていける地産地消のハードウェア・ソフトウェアも資金調達に成功しているような印象があります。

Image credit: Pxhere(CC0 public domain image)

北尾:ネット関連でもそこまで出てきてるのはすごく面白いです。ハードありきで関連のソフトウェアがサポートする役割として広がっていくという印象なのか、ソフトウェア単体で進んでいて、ハードウェアの進む速度を超えて広がる印象なのでしょうか

白石:インターネットの世界と違って、エネルギーとか環境はどうしてもフィジカルが入ってくるので、データだけで物理的な制限を取り払った形での成長は多くないです。ハードウェアもソフトウェアの両方とも拡大していくと思います。ただ、ハードウェアもこれまでと比較にならないほど、あるいは、産業革命に似たレベルの大きな大量の投資が必要になるので、大量の新しいハードウェアの必要性、そしてそれらを効率よく上手く繋げていく社会のデジタル化というのは必ず必要になってきますので、これらを両方お互いサポートしあって成長していくと思っています。

北尾:ありがとうございます。次にエネルギーど真ん中以外の周辺領域、例えばサステイナブル×既存産業。衣食住、EC、人材、医療、その他依存領域とサステイナブルの組み合わせで立ち上がっている会社はありますか

白石:私が見てる分野でサーキュラー・エコノミー的に繋がっているかなと思うのが、住宅のリノベーション関連です。例えばドイツに ecoworks という会社がありますが、建物を 3 D でスキャンしてパーツを工場で製造すると。それで、古い建物をリノベーションによって省エネを行って、太陽光とかバッテリーも一緒に設置してエネルギー効率が良い建物を作ります。面白いスタートアップだと思っています。

Image credit: ecoworks

ファッションと食に関しては関わっているのが多くないので、付き合ってる他のファンドで投資している例で、いくつかご紹介すると、食品ロスの削減が大きなポイントとして出てきています。オランダのスタートアップで Pieter Pot という会社がありますが、 Zero Waste Delivery と言って、食材を配達するんですけど、基本的にガラス瓶で配達してそれをまた回収することで基本的にプラスチックゴミを出さないという会社です。まだ、創業して2年ほどで新しい会社なのですが、取り扱いの品数、サイズ、お客さんも急激に増えていると聞いています。

あとはフランスのスタートアップで Phenix というのですが、余剰食品の販売をサポートしたり、ドネーションの活動をしたり、デジタル技術を使ってうまい具合に消費者と需要者をつなげて、食品ロスを下げています。

Image credit: Phenix

昨今大きく動いているのはカーボントラッキングだけではなく、そこに加えてその上にサプライチェーンをトラッキングする会社、特にバッテリーや自動車 OEM の分野、ソーラーパネルなども含めて。 例えば、イギリスのCirculor という会社があります。この会社では、素材がどこから送られてきたか、どの炭鉱で作られたものなのかを追います。例えば、バッテリーはコバルトが問題になりますが、人権を無視した鉱山で取られていないかなど、マイニングのポイントから消費者までをずっとデジタルでトラッキング出来るようサポートします。

Image credit: Circulor

これは、人権や環境の問題もありますが、特に昨今ではサプライチェーンの問題がこの分野でも起きてますので、自国内でできるだけリサイクルしたものを優遇していきたいという意識があり、法整備も整ってきていますので、これらのスタートアップも多く出てきています。

北尾:すごい面白い話!この領域の一般的なバリュー算定方法、エクイティ戦略の王道パターンはどんなものか教えてください。PL だけじゃなく、環境への貢献指標等々も見ることで、バリエーションの算定が変わったりするのかとか。ヨーロッパの最先端のところで動きがあれば伺いたいです。

白石:環境だから、エネルギーだからといって投資家から見たときにそれほど変わらないと思います。

基本的にCVCもVCも同じだと思いますけども、彼らの目標となっているエグジット時のバリエーションがいくらになるのかを考えて動いているのかなと。私も欧州と米国のファンドでESG、SDGs も含めてトラッキングして評価をしているファンドの方たちもみんな苦労しているのが実態です。今はまだスタンダードがないので、会社ごとにKPIを作ってトラッキングしてるのかなと思います。

プライベートエクイティとか上場企業だと事業自体がはっきりできているのでわかりやすいですが、ベンチャーは実態があっても小さかったりこれからやろうとしているインパクトが中長期的に将来出てくるだろうと考えた時に従来型のトラッキングでは同じような評価は難しいです。業態や業種によって重要になるKPIは異なりますが、共通しているのは関連しているKPIをトラッキングしてCO2削減量や雇用喪失の数や廃棄される食品料の変化が良い方向に持っていければとフォローして臨んでいます。つまり、私の知ってる範囲では特殊なバリュー算定方法、エクイティ戦略はないです。

北尾:実際に M&Aの件数はこれからなのかもしれませんが、もしあったら教えてください。事業会社側もそういう動きを取り込んでいきたいなという声は出始めているんですか

白石:ベンチャキャピタルとしても欧州米国のファンド運営の人たちの認識として、特にあの年金基金とか LP の方々が重要視されているということがあって、ファンドによっては成功ボーナスを環境とか ESG や SDGs の強化と繋げているところもあります。

北尾:ありがとうございます。

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